「鈍考donkou」の想い
時間の流れの遅い場所をつくりたい。そのために設計された私設図書室と喫茶が「鈍考donkou/喫茶 芳 Kissa Fang」です。
人を取り巻く日々の流れが加速するなか、社会のシステムやテクノロジーが求める速度から、敢えて鈍くあること。そして、人としての愉しさや健やかさについて自発的に考え続けること。それが、「鈍考」で促したい時間です。
ゆっくりと焙煎し丁寧に淹れた珈琲を味わいながら、本を読む。なんということのない孤独な時間と、書物という過去の誰かとの交感が、これからの人間の創発や豊かさの基盤になると信じて、ここに「鈍考」をひらきます。
「鈍考donkou」について
「鈍考」とは、BACH代表・ブックディレクターの幅允孝が主宰する私設図書室と、併設する「喫茶 芳」のことです。
有限会社BACH(本社:東京都渋谷区)の京都分室となる「鈍考」は、市中から少し離れた檜林の借景が美しい、傍に小川が流れる静かな立地。
「時間の流れの遅い場所」を意図したこの建物1階は、BACHが2005年の創業以来アーカイブしてきた約3000冊の蔵書を手に取り読める私設図書室となり、また併設する「喫茶 芳」では、手廻し自家焙煎で深煎りにローストした珈琲を、ネルドリップの抽出で飲むことができます。
「鈍考」は、90分で定員6名(1日3回の入れ替え制)のみをWEB予約で受け付ける小さな分室ですが、土地探しの段階から幅と一緒に計画を進めてきた建築家の堀部安嗣は、伝統的な日本の住宅建築の手法と最先端の技術を織り合わせ、この場所ならではの居心地と温かみ、そして静かに流れる時間をつくりあげました。
また、施工を担当した羽根建築工房も「手刻み」と呼ばれる日本古来の伝統工法を随所に用い、堀部の描いたプランを見事に実装させ、五感に訴える建築的引力を生み出しました。
時間の奪い合いが激しく、人と本の距離が少しずつ離れてきてしまっている昨今ですが、私たちは「本だからこそ伝えられる何か」を未だ探求しようとしています。
現在の技術や社会構造が人間に求める即時制や日々の高速回転とは距離をおいた「鈍さ」。それをほんのひと時でも体感し、1冊1冊の本(=先人の智慧)に深く潜るためにつくった、未来に向けた本と時間の実験室が「鈍考」です。
「鈍考 donkou/喫茶 芳」をご利用の方へ
本施設はWEB予約制になっております。
1枠(90分)定員6名
施設使用料+珈琲1杯 ¥2,000(税別)
基本営業日 水曜日〜土曜日
11:00~12:30(第1部)
13:00~14:30(第2部)
15:00~16:30(第3部)
- 1名様につき1日1枠までとさせていただきます。
- 予約開始は毎週水曜日9時より。2週間後の水、木、金、土曜日分の予約をまとめて受け付けます。
- 本施設に駐車場はありません。近隣の方々の御迷惑になりますので、路上への駐車もご遠慮ください。
- 駐輪場は有ります。建物前、石畳のスペースに停めてください。(但し、施設内での盗難・破損に関しては責任を負うことができません)
- できるだけ公共交通機関等をご利用ください。叡山電鉄の“鈍行”列車でお越しいただくことをお勧めしています。(三宅八幡駅から徒歩10分)
- 入場後はロッカーに荷物・貴重品をお預けください。また、「鈍考」としては、スマートフォンのお預けも推奨しています。
- 施設使用に関して、年齢制限は設けていません。が、「鈍考」は遊び場ではなく、静かに思索を巡らせる場所です。周りのゲストの迷惑にならないよう静かに時間をお過ごしください。
- 一方で、こどもたちが声を出すのはとても自然なことです。彼ら、彼女らに居合わせたゲストも、かつての自身を思い出し、ぜひ寛容な気持ちで見守りください。
- 珈琲が飲めない方のために、他のソフトドリンクも準備しております。
- BACH 京都分室 鈍考 donkou/喫茶 芳
- 京都府京都市左京区上高野掃部林町4-9(GoogleMap)
- Instagram:@kissa_fang
- E-Mail:donkou@bach-inc.com
- 建築:堀部安嗣建築設計事務所
- 施工:羽根建築工房
- ロゴデザイン:尾原史和(bootleg)
- 家具計画/制作:松澤剛(E&Y)
- 家具制作:吉川和人
- 造園:伊庭知仁(庭知)
- WEB:谷戸正樹(MYDO LLC)/地脇創
- 写真:中島光行
「鈍考」の本について
外部記憶が充実し、生成系AIが機械学習を日々進めるなか、インターネットに浮遊していない知見やアイデアを人が探めるときに、紙の本だからこそ伝えられる何かがあると私は考えています。
書き手がしぼり出した言葉を、読み手が丁寧にすくいあげ、交感し、解釈すること。過去の言葉を未来のための血肉として変貌させること。
それらしい言説のまとまりを作ることは機械がしてくれる時代がきていますが、著者と読者が成す1対1の精神の受け渡しは、人間が自発的に考え、判断し、未知を発見するための基盤になると考えます。
そのための集中する場と、時間のフレーミング、そして心の弛緩が「鈍考」には在ります。
ページを読む手を止めて考え込んだり、読み戻ったり、別の書物を手に取ったり、紙の本でしか体感できない情報の取り入れ方をもう一度ここで呼び覚ましてください。
「鈍考」主宰 幅 允孝
「喫茶 芳」の珈琲について
手廻しロースターで焙煎した豆をネルドリップで抽出します。1時間ほどかけて1キロだけ、ゆっくりと深煎りでローストにした珈琲豆に、一滴一滴を慈しむように注ぐその時間。それは、静寂でありながら確かな手応えもあり、その遅さも含めて訪れる人の心を照らすものであればよいと願っています。
「喫茶 芳」店主 ファン
「鈍考」の設計について
“手間を惜しまず無駄がない”
原初的で歴史ある手仕事や人の営みにはこんな美しさがある。
本に関わること。
珈琲を淹れること。
木を加工して建てること。
土を塗ること。
樹を植えること。
そして建築の設計も同じようにありたいと思った。
でもこれらは特別なことのようで、本来まったく特別なことではない。
そんなあたりまえの営みと、あたりまえの遅い時間の流れをふつうに愉しめる場所があるといいなあ、そんな思いと力がこの京都の地に集結してこの鈍考はできました。
「鈍考」の施工について
手組み手刻みの美しい仕事にこだわりました。
現場の立地やそれをよりよく引き立たせる堀部さんの設計、幅さんの人柄やこの地で過ごす時間への考え方がぴたりと合い、作り手として気の抜けない仕事となりました。
この建物の核ともなろう1Fの木材の選定にはぐっと力が入っていることは見ての通り。凛とした材は大工の士気を上げ、それがはたまた現場へ入る別の職人たちへも伝播し、素晴らしい建物ができたと自負しております。
木造住宅の木組みの墨付け、手刻みの技術の継承者である大工不足、リクルートや育成をテーマに、共感する仲間を増やしていこうと立ち上げた「手刻み同好会」にとっても、意義のある仕事となりました。